女性に鍼灸施術を多くしているので,もっとも多くみられる症状の一つが「便秘」です。腸の動きが悪くなっておこる便秘症にも鍼灸はとても効果があります。これから妊娠する人やすでに妊娠中の方,またほかの病気を克服していくうえでスッキリさせておきたい問題点です。
- 便秘とは何か?どんな状態だと便秘といえるのか
- 便がでる仕組みを理解する
- 機能性便秘は弛緩性,けいれん性,直腸性に分類される
- 結腸を通過する時間と便秘の関係
- 便秘改善の問題点
- 便秘への鍼灸施術
- ほんとうの便秘を改善するということと日常生活の注意点
目次
便秘とは
日本の内科学会や消化器学会などの定義を見るとそれぞれですが,要約してみますと
- 3日以上排便がない状態(週に2回以下)
- 毎日あったとしても残便感がある
- 排便の間隔が不規則
- 上記が3か月以上に渡るもの
といったとかろでしょうか。
便が出る仕組み
直腸に便がなく空っぽの状態だと便意はもよおさずS状結腸より上にあります。腸の動きにより便がS状結腸から直腸へ一気に送られると,直腸の壁が膨らんで腸壁に便の塊りの刺激が伝わります。この刺激が仙骨とつながる神経を介して脳に伝わり,便意をもよおすのです。これによってトイレに行こうという行為になります。
肛門には知覚があって便が近づいてくると肛門の筋肉がゆるみます。そしていきむことによっておなかの中の圧力が高まって肛門から便が排出されます。
便のでる仕組みとは,腸管の中を内容物が通過するとその反射を感じ取って押し流すことなのです。
それともう一つ大事なのは便量が少なすぎてもだめです。便秘の改善はまず適度な柔らかさと大きさをつくることを目指します。
便秘の分類
便秘はほかに病気があったりするときや服用している薬によって起こることがあります。ここではどちらにもあてはまらない「機能性便秘」についてとりあげます。
弛緩性便秘
簡単にいうと腸がゆるんでしまって,腸管の中を便を送り出す速度が遅くなってしまった状態です。その結果便の水分がどんどん吸収されてしまい,便が硬くなって円滑に排便できなくなってしまうのです。
けいれん性便秘
反対に腸が緊張しすぎて便秘になってしまう場合があります。腸管がけいれんのような緊張状態になってしまい便を送り出す速度がこれも遅くなってしまうということです。けいれんによっておなかに痛みを感じることがあります。
直腸性便秘
肛門の手前にある直腸付近に便が到達すると反射的に便意をもよおすのですが,なんらかの原因で反射が鈍くなり便意をもよおしなくなる状態です。
機能性便秘のタイプ
結腸の通過時間が正常なタイプ
結腸を機能性便秘の中でもっとも多いタイプです。結腸を通過する時間は正常なため,排便の回数も普通です。ところが便が出にくく感じたり便が硬い,おなかが張った感覚や痛み,すっきり感がなく,自身で便秘だと感じています。
このタイプは直腸の反射が低下しているため便が貯まっても便意をもよおさない,便が硬くて塊自体が小さいなど,複雑な病態です。
結腸の通過時間がゆっくりなタイプ
若い女性や思春期に多く見られるタイプです。週に1回とか排便の回数が少なく便意をあまり感じません。大腸の内容物を送り出す運動が低下していると考えられます。結腸の通過時間が遅いことで水分を吸収されて便が硬くなり,さらに通過が遅くなっておなかの張りを感じるタイプです。
便の排出が困難なタイプ
大きくて硬い便が通過することにより肛門が裂けてしまったり,痔などの症状があって痛みを回避したいがために,排便をついつい我慢してしまうタイプです。また加齢や運動不足から骨盤底筋が弱ってしまっていきむことができないことからもなります。
機能性便秘の問題点
機能性便秘の問題点を集約すると
- 便意の低下
- 腸管運動性の低下
- 排出能の低下
になります。
便秘に対する鍼灸施術
大腸の反射
排便は大腸内を内容物(便)が通過するとき,その反射を感じ取って送り出されると先に述べました。したがってその大腸の反射が正常に働くことができるようになる施術をします。
具体的には結腸と直腸につながる神経のそばを狙って施術します。ただし神経には直接あてません。腰の背骨と骨盤の仙骨から結腸と直腸の反射に関係する神経が出ているのですがその付近に鍼をします。とくに便秘の方は腰やおしりの筋肉が凝っていることもあります。
おなか側もうちます。おなかを触診すると,とくにおへその左側から下行するように便の塊に触れることができます。そこを狙って鍼をします。
冷えのあるときには腰とおなかに温灸をします。
鍼をすると腸が動いてキュルキュル音が鳴る感じがしてきます。一発でなれればよいのですが何回か施術を重ねていくとだんだんと動くようになっていきます。
脚のツボを使う
ひざ下に胃や大腸に関係するツボがあるのでそれも使います。遠隔操作なのですが,妊娠中で便秘のある方によく使います。おなかや腰にする鍼がメインなのですがその補助として鍼をします。
仕上げのマッサージ
最後におなかのマッサージです。大腸の走行に沿っておへそを中心に回転するようにします。指圧と軽擦(なでさする)の動作で20〰30回くらいします。
便秘を改善する真の意味
便秘を改善するということは貯まってしまった便を排出させることではありません。それよりは適度な量とやわらかさの便をつくることが重要です。
おわりに
機能性便秘は日常生活とおおいに関係するので,食生活と生活習慣のアドバイスをあげておきます。
食生活
- 規則正しい食生活と1日3回の食事をとる⇒排便習慣
- 食物繊維をとる⇒便量の増加
- 適度な水分をとる⇒硬い便を防ぐ
- 乳酸発酵食品,オリゴ糖をとる⇒腸内フローラの改善
生活習慣
- 朝食後に必ずトイレに入る⇒規則的な排便習慣
- 便意を我慢しない⇒排便や腸の反射の正常化
- 軽い運動やウォーキング⇒腸管運動の改善
- ストレスの解消や気分転換⇒自律神経の改善
きのこや塩こうじ,マーガリンやジャムにも効果があります。ダイエットによって便秘がひどくなる方はこの辺を上手にとる工夫をします。
食物以外からの水分摂取も必要です。たとえば朝起きたとき,食事中に,午前10時と午後3時,寝る少し前にお茶や白湯などを飲みます。